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最高裁判所第一小法廷 平成8年(行ツ)21号 判決 1996年3月14日

神奈川県茅ヶ崎市松林一丁目一四番三九号

上告人

桂秀光

神奈川県茅ヶ崎市茅ヶ崎一丁目一番一号

被上告人

茅ヶ崎市

右代表者市長

根本康明

被上告人

右代表者法務大臣

長尾立子

右指定代理人

泉本良二

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行コ)第五五号損害賠償等請求事件について、同裁判所が平成七年九月二七日に言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、原判決を正解しないか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違反をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四一〇条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井正雄 裁判官 小野幹雄 裁判官 高橋久子 裁判官 遠藤光男 裁判官 井嶋一友)

(平成八年(行ツ)第二一号 上告人 桂秀光)

上告人の上告理由

(1) 労働基準法第一一五条および民法第一七四条第一号によると賃金の時効は最高でも二年間とされており、これらの規定と日本国憲法第一四条第一項の規定からすると、本訴一審判決にある、「実際に上告人に東京都が給与を支払ってから二年以上経過した後に、給与支払者が給与額変更を容認する」趣旨の判断は違法である。このような容認行為が是認されるならば、何十年、何百年経過しても、受取済み賃金額の変更が可能になり、安定した社会生活を送ることはできない。

(2) 原判決で、原告である上告人の賃金に支払過ぎがあったとの判断が出ているが、実際に支払ってから(毎月一五日が給与支給日。)その月の月末までには、たとえ公務災害にともなう調整があったとしてもそれにともなう計算を原告に示すことは可能であり、人事委員会の勧告に基づく給与改訂が行なわれたとしても、その年度の一二月末または三月末までには調整金額を示すことは可能であった。にも関わらず、給与支払者である東京都から原告に対して、このような合理的な期間内に給与支給額変更がなされなかったのであるし、また、本件公務災害直後に勤務先校長や教育委員会幹部らから「公務災害に認定されれば、治療のため休業しても普通に勤務していたの同額の収入が保証される。」との趣旨の約束的説明もあったのであるから、実際の給与支払から五年以上経過しての賃金額変更は違法で不当である。

(3) 右のような次第であるから、被上告人らが、無条件に上告人の給与支払者である東京都の給与額変更手続きを是認することは違法で不当であることは明らかである。

(4) 右、被上告人らの上告人給与額変更是認行為が、東京地方裁判所平成元年(ワ)第一六〇一二一号および平成二年(ワ)第七四八号併合事件での判断材料として引用され、上告人は対教師校内暴力傷害事件の被害者であるにも関わらず、甲第一〇号証にあるように、給与を差し押さえられるというとんでもない状況に現在おかれている。

(5) 右のような、法律運用は地方公務員法第四五条や地方公務員災害補償法第一条、並びに、労働基準法第一条に規定されている立法の趣旨に反するものである。

(6) 従って、本件で問題となっている納税額変更処分は十分法律的不利益を上告人にもたらしており、本件処分取消によって受ける上告人の法律的経済的利益は計り知れないものである。

(7) 原判決および控訴判決は行政事件訴訟法第一五条および第一一条の規定を無視して判断しており、不当で違法なものである。

(8) 右控訴判決理由で、茅ヶ崎市長のなした本件変更処分が上告人の法律的に保護する利益を侵害していないとする趣旨の記載があるが、いくら納税しているかは、直接収入と関係しており、借金をする場合の資料として非常に重要である。住宅ローンなどを借りる場合など、正当な借金申込資料として納税関係の証明は実際使われているが、このような証明が後日変更になり、そのため、借金の条件や返済計画が狂ってしまうことは十分起こりうる事態であり、右控訴理由の趣旨がまかり通ることになれば、債権者にとっても債務者にとっても具体的な金融上の不利益が生じる。よって、右判断は失当である。

(9) 本件納税額変更は一年以内というような短期間のものでなく、何年も経過してから行なわれており、このような税額変更の基となった給料の変更が本件のように公的機関でなく中小零細企業が申告した場合、果たして、基となった課税対象給料額の変更を被上告人茅ヶ崎市や日本国が認めるか、はなはだ疑問である。従って、本件のような納税額変更の法律的運用は日本国憲法第一四条一項に違反する。

以上

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